3 教務主事室の対応
3.1 はじめに
多くの犠牲者をだした大震災から7カ月が過ぎようとしている。学生・教職員には家屋の全壊・半壊などの被害は相当あったものの人的犠牲者がでなかったことは奇跡的なことで不幸中の幸いであった。
震災の復興は急ピッチで進みつつある。神戸市内の避難所は8月20日をもって閉所され、交通機関は8月23日の六甲ライナーの開通により震災後約7カ月で全線復旧することになった。一方、神戸高専のグランドにも被災者用の仮設住宅が設営されているように、まだまだ震災の傷跡は深い。施設・設備への直接的な被害が比較的少なかった神戸高専においても震災の与えた影響は非常に大きなものであった。
例年、1月中旬以降は後期期末試験、成績処理、卒業および進級認定会議、また入試関係の準備や処理、更に次年度用の時間割の作成のような次年度の準備などが集中しており教務主事室にとっては多忙をきわめる時期である。震災はそれらのスケジュールを直撃したため、まさに忙しい学年末となった。震災時の記憶がいまだ残っているこの時点で教務主事室が行った対応について総括しておきたい。
3.2 授業再開に向けての対応
震災後の対応は1月17日(火)当日の午前8時35分頃の休校措置から始まった。すでに出勤していた教職員で電話の応対をしたが、こちらからの電話はほとんど通じず、また停電のためテレビも使えないため外部の様子は全くつかめない状況であった。校内を見回ったところ、応用化学科の実験室ではガラス器具が散乱しており薬品ビン類の破損が心配であったが他の学科の実験室の被害は小さいように見受けられた。施設への被害は講義棟の渡り廊下の天井部の落下、都市工学科と応用化学科間の渡り廊下部の破損が目立つ程度であった。また、西神中央や学園都市付近の建物や住宅などにも大きな被害は見られなかった。
このような状況から、当初、地震は大きかったものの被害はそれほど大きくなく、まもなく電車が運行されて学校も再開できるものと思われた。しかしながら、テレビやラジオなどの情報から被災の状況が明らかになってくるにつれ、重大な事態であることを認識することになった。このため、休校措置も、当初、1月17日(火)に当日のみを休校としたが、引き続き18日(水)に20日(金)までの延長、更に19日(木)に27日(金)までの再延長と被災状況が明らかになるにつれて変更を重ねることになった。
1月18日から学科主任を中心として教職員の安否確認を行い、また、学校への学生の安否確認の連絡受付と担任を中心とした安否確認を行った。また、授業計画、後期末試験、成績処理、卒業および進級認定会議、また入試関係の準備や処理、更に新年度用の時間割の作成のような3月末までの作業スケジュールの見直しとその再構築に取りかかった。
1月23日ごろからの交通機関の復旧はめざましく、月末までにはかなりの学生の通学が可能となるような復旧が見込める状況となった。西側の交通機関はあまり支障がない程度までに復旧した。(参考資料3-1主要な交通機関の復旧状態)
1月25日(水)に震災後初めての教職員会議を開き、30日(月)に安否確認のために学生を登校させることと、31日(火)から授業を再開することの了承を得た。授業再開は時期尚早であるとの意見も多くあったが、できるだけ早く授業を再開することが学生に学校への気持ちを向かわせて学力をつけさせるために何よりも必要なことであり、また我々が今できることは授業の再開であるとの判断により決定した。神戸高専は避難者を抱えておらず、建物・設備への被害も少なく、授業ができる状況の教官もそろっていたため震災後2週間目から再開することができた。学生・教職員ともに、被災家族や知人などをかかえながらの授業再開であった。
通学困難な学生に対しては少なくとも週1回の登校を求め(登校日を決め)、クラス担任または教科担当教官から指導や指示を受けることを連絡した。一方、教科担当者は授業内容をクラス担任に渡しておくようにした。また、教科担当者には被災学生や通学不可能な学生の成績について、欠席が不利にならないような特別な配慮をお願いした。
更に、学年制をとる高専においては、あいまいな卒業や進級の認定は次年度以降に禍根を残す恐れがあるため、いかにして本年度中にけじめをつけるかを念頭に置いて、4年生以下については授業期間を延長することと期末試験を実施することを提案し、決定した。また、5年生については、レポート試験で対応することにした。
以下は震災直後から授業再開までの主な対応である。
1月17日(火) 震災当日の休校を決定
1月18日(水)
- 1月20日 (金)までの休校延長を決定
- 教職員集会を開催して対応を協議
- 先生方の安否確認および各学科の被災状況の把握開始(各学科主任の先生へ依頼)
- 学生の安否確認作業開始(学生は学校へ連絡するようにマスコミへアナウンス依頼)
1月19日(木)
- 1月27日(金)までの休校の再延長措置を決定
- 教職員集会を開催して対応を協議
- 学生の安否確認と家庭状況の把握を依頼(クラス担任の先生へ)
1月20日(金) 教職員集会
- 入試日程の変更案の協議
- 5年生の日程案の協議
- 4年以下の日程案の協議
1月23日(月) 校務運営委員会、教職員集会
- 入試関係の日程変更の確認
- 5年生の期末試験をレポート試験への変更および日程の決定
- 学生登校日(1/30案)の協議
- 交通機関の安全性、所要時間の確認を1/23、1/24に行うことを決定
1月23日(月)~24日(火) 交通機関の安全性、所要時間の調査(明石高専授業再開)
1月25日(水)
1) 教職員会議
- 1/30の学生登校(11時までに安否確認のため)を決定
- 1/31(10時)からの授業再開と期末試験の実施を決定
- 5年生の日程の確認
- 入試関係の日程変更の確認
2) 学生登校日(1/30)、授業開始日(1/31)のアナウンス依頼(マスコミへ)
1月26日(木) 学生登校日(1月30日)の調査と伝達事項についての依頼文書配布(クラス担任へ)
1月27日(金) 教職員会議
- 入試日程および入試への対応の協議
- 被災学生、通学困難学生の宿泊への対応の協議(水道復旧関係の情報も含めて)
1月30日(月)
- 学生登校(11時)、全校集会(11時30分~)、ホームルーム(12時頃より安否確認および1月31日からの授業再開、今後の日程等について学生へ伝達)出席率91.4%
- 教職員会議
震災後の出欠処理、入試日程、出席状況等の報告、学生の宿泊等
1月31日(火) 10時始業による授業再開(当面30分単位の授業)
3.3 学年末の対応
3.3.1 5年生の場合
5年生の期末試験は2月2日(金)~10日(金)の期間となっていたが、交通機関の状態や以降の日程の関係から日程を延長せずにレポート試験に変更した。このため、その後の日程はほとんど変更せずに消化することができた。卒業研究はほぼ同時に再開され、宿泊も含め、夜遅くまでの追い込みが行われた。また、卒研発表会は各学科に一任していたがいずれの学科においても催された。更に、卒業研究の各学科代表者発表も例年通りの形式で高専研究会主催により3月15日に催された。
5年生の大まかな日程は以下の通りである。
- 1月23日(月) レポート課題依頼(教科担当へ)
- 1月30日(月) レポート課題説明(クラス担任)
- 2月10日(金) レポート締切り(非常勤担当分)
- 2月15日(水) レポート締切り(常勤担当分)
- 2月20日(月) 成績提出締切り
- 2月28日(火) 卒研成績締切り
- 3月 1日(水) 第1次卒業認定会議
- 3月 2日(水)~7日(火) 再試期間
- 3月 8日(水) 第2次卒業認定会議
- 3月15日(水) 各科代表卒業研究発表会
- 3月17日(金) 卒業式、卒業生激励会
3.3.2 4年生以下の場合
4年生以下は震災による授業の遅れを可能な限り回復することをめざしたが、授業延長は1週間が限度であった。最終の2次進級判定会議は年度末ぎりぎりの3月29日(水)とした。また、授業時間は交通機関の状態を考慮して10時始業-15時10分終業で再開した。つまり、授業は30分単位(5分休憩)で通常の時間割表に基づき行った。8時限目の終了は3時10分である。
授業再開後、30分単位授業から40分授業への移行を常に検討していたが、交通機関の状況により授業最終日の2月24日まで30分授業となった。
交通機関の復旧は相当急ピッチで進んできたが、1月30日の時点ではいまだ交通機関が寸断された状態であったため、通学に片道5時間程度かかる学生もいた。そのような状況の中で、学生の頑張りは相当なものであったと言える。2月24日迄の出席率の平均は90.7%である。(出席率の最低は83.1%、最高は97.3%)
なお、通学困難な学生に対しては学生主事室の世話により合宿施設での宿泊の便宜がはかられ、また、数名の先生方は授業のために学校に宿泊された。
授業期間を1週間延長したことにより授業日数は1週間分の減で済んだが、授業は30分単位で実施せざる得なかったために当初の授業計画からは消化できない部分が生じることになった。このため、平成7年度の授業に支障をきたすことが懸念されている。
なお、期末試験を実施して学年末にけじめをつけることができたことは、学校にとって良い判断であったと評価している。
4年以下の日程は1週間授業を延長したため、後期期末試験等も1週間延期し、以下のように変更した。
- 1月31日(火)~2月24日(金) 30/60分授業
- 2月 7日(火)~15日(水) 期末試験時間割作成
- 2月27日(月)~28日(火) 入試のため自宅学習
- 3月 1日(水)~ 8日(水) 後期末試験 (10時30分開始)
- 3月13日(月) 成績提出締切り
- 3月20日(月) 第1次進級認定会議
- 3月22日(水)~28日(火) 再試期間
- 3月24日(金) 終業式
- 3月29日(水) 第2次進級認定会議
- 3月31日(金) 平成7年度クラス名表提出
3.4 入試への対応
大きな影響を受けたもう一つのものは入試であった。特に、学力入試は国立高専と同じ問題を使っている関係から日程の延期は他への影響が大きいため、予定通りの日程で入試を実施するつもりであった。しかしながら、公立高校の入試日程が被災中学生への配慮から延期されるとの情報と共に、神戸高専の入試日程についても延期の要請を受けたこともあり、やむを得ず延期をすることになった。入試関係の日程変更は資料3-2に示す通りであり、関係各所へ通知した。出願期間には郵便事情が考慮された。
震災にもかかわらず幸いに、平成7年度入試倍率は推薦入試、学力入試とも平成6年度入試倍率を上回る結果となった。
3.4.1 推薦入試
推薦入試は2月3日(金)に作文と面接試験を行い、合否は調査書、推薦書をあわせて総合判定することになっていた。しかしながら、1月20日(金)の時点で推薦入試は10日間延期することと、更に作文と面接試験を省いて調査書と推薦書のみで選考することに変更した(受験者の登校は不要)。
推薦入試は出願者および合格者いずれも昨年を上回る結果となった。
主要日程は以下の通りである。
- 1月30日(月)~2月10日(金) 願書受付(土,日も含む)
- 2月 1日(水) 入試委員会(推薦入試作業日程の決定)
- 2月13日(月) 調査書等審査
- 2月14日(火) 合否判定資料作成
- 2月15日(水) 合否判定会議
- 2月17日(金) 合格発表
3.4.2 学力入試
学力入試は1週間延期して2月26日(日)となった。国立高専の学力入試は予定通り2月19日(日)に行われたため、本校の学力入試日は明石高専の入試日の1週間後となった。さらに、私立高校の試験日がその後延期され、入試日が重なるなど不利な状況が生じたり、また中学校の先生や中学生の保護者などから試験日の再変更の要望が直接あったりしたため大幅な志願者の減少が当初懸念された。
国立の入試問題は使用できないため、学力入試用の問題はあらかじめ作成されていた予備問題を使うことになった。恐らく使うことはないと思われていた予備問題が役立つことになった。早速、入試問題作成委員会を発足させ、委員の先生方に国語、数学、英語の3教科の予備問題の検討をして頂いた。必要に応じて訂正、追加説明文を作成して頂いた。また、入試会場の複数化の検討も行ったが、会場確保や実施方法の困難さの面から見送ることになった。
調査書の他に、臨時的処置として中学校長からの被災した受験生についての被災状況等を記載した副申書の提出を依頼し、合否判定の参考とした。
試験当日は交通機関の回復も相当進んでいたこともあって出席状態も良く、混乱なく実施できた。
結果的には、推薦志願者、学力志願者とも昨年より増加して合格者のレベルも高くなった。副申書を提出した総数は50名であった。その内、合格者は22名である。
なお、明石高専や私立高校の影響は比較的少なく、特に私立高校との競合は少なかったと思われる。
主要日程は以下の通りである。
- 1月30日(月)~2月17日(金) 願書受付(土,日も含む)
- 2月 1日(水) 入試委員会(学力入試作業日程の決定)
- 2月 9日(木) 被災受験生の副申書の提出依頼書の送付(中学校長宛)
- 2月20日(月)~2月22日(水) 調査書審査および資料確認
- 2月22日(水) 教職員会議(入試実施要領説明)
- 2月24日(金) 会場準備(全校清掃)
- 2月26日(日) 入試(学力検査)、採点
- 2月27日(火) 合否判定資料作成
- 2月28日(火) 合否判定会議
- 3月 1日(水) 合格発表
- 3月16日(木) 合格者召集日
3.5 平成7年度に向けての準備
平成7年度に向けての準備の主なものは時間割作成、出席簿入力用データ作成である。
平成7年度の授業時間割の作成はこれまで教務主事室で行ってきたが、各科の教務委員の先生1名にご協力願うことになった。快く引き受けていただき、心強く思われた。2月15日(水)までに作成資料、駒データを各科から提出してもらい、20日(月)に時間割作成方法の説明をした。3月1日(水)より作業に入った。初めてのことでもあり、多少戸惑いも見られたが予定していた3月22日(水)の仮時間割表の発表に間に合わせることができた。ご協力に感謝すると共に時間割編成の困難さについても認識いただくことができたと思われる。
出席簿管理のジョブは学年成績と出欠データの結合処理を終えてその年度を閉じることになる。次年度の出席簿管理のための出席簿入力用の基礎データはカリキュラム、教科コード、非常勤を含めた教員名、教員コード、選択科目受講者一覧、クラス名表等である。第2次進級判定会議を3月29日(水)としたため、クラス名表と選択科目受講者の決定は名表提出日の3月31日(金)以降となった。このため、データ作成の一部やチェック等の作業は新年度にずれ込むことになった。更に、平成7年度に47名のクラスができることになったが、出欠入力用のプログラムは44名までしか対応していなかったため、プログラムの修正の対応も必要となった。4月10日(月)に間に合わせるつもりで作業を行ったが、残念ながら多少遅れることになった。
入試用の予備問題については平成7年度に新たに作成することが必要となり、関係教科担当者にはご苦労をかけることになった。
新年度になり、4月1日からJRが全面開通したことで東方面からの交通が格段に良くなった。しかしながら、阪急、阪神、神鉄等はいまだ不便な状態にあったため、4月10日10時より入学式、11日9時30分より始業式・身体測定、12日9時20分始業で授業開始(5月のゴールデンウィーク前まで45/90分授業:5分短縮)とした。その後、連休明けの5月8日(月)からは正常授業(50/100分)に戻した。
3.6 まとめ
震災以降の教務関係の対応を決定していく段階において常に意識したのは、交通機関の復旧状態であった。明日、3日後、または1週間後にどの程度の復旧が期待できるのかということであった。また、授業再開時にトイレや実験で使用する水の確保ができるかということであった。幸いなことに学園都市における電気、ガス、水道のライフラインへの被害は少なく、早い段階で確保されていたため、これに対する心配は最小限で済んだ。構内で水道の漏水が生じているのではないかと心配された時期もあったが、ライフラインへの被害が軽かったことは幸いであった。学園都市という地理的条件から学校の被災が軽かったことに加え、水道の復旧と市営地下鉄をはじめとした交通機関の運転再開が早かったことが震災後比較的早い段階で授業を再開できた大きな要因といえる。
震災時の対応は緊急を要したため、教務主事室関係の運営は多少強引な所もあったと認識している。非常事態における危機管理のあり方については今後の検討課題であると言える。
学年末を何とか乗り切って新年度のスタートを切ることができたのは、教職員の皆様のご協力があったからであり、また教務主事室のスタッフが一致して対処してきたことによるものと認識しています。
最後に、他高専、後援会、六神会などをはじめ皆様の暖かいご支援とご協力いただきましたことに感謝申し上げます。
(平成7年8月20日付・教務主事 早ノ瀬信彦)
参考資料 3-1
主要な交通機関の復旧状態
授業再開等震災後の対応にあたって常に意識したのは交通機関の復旧の進み具合であった。主要な交通機関の復旧時系列(新聞報道を参考とした)に示すように、特に、1月23日から1月30日までの急速な復旧、代替バスの運行が印象深い。また、2月16日の市営地下鉄の全線開通、4月1日からのJR全面開通も印象深い。また、図3-1~3-3には2月1日、2月20日および3月11日の神戸新聞による復旧見込みをそれぞれ示す。
主要な交通機関の復旧時系列
1月17日5時46分 | 地震発生(マグニチュード7.2) 交通機関全面ストップ |
1月17日 | JR在来線・山陽新幹線・阪急・阪神・山陽・神鉄・神戸市営地下鉄の他、各地の鉄道のほとんどが不通となった。阪急伊丹駅、JR六甲道駅がかなりの被害。JR・阪急などの復旧には数ヶ月かかる見通し。 |
1月18日 | JR尼崎-西明石区間、阪急西宮北口-三宮区間、阪神甲子園-元町区間などを除いて不通。山陽電鉄、神戸電鉄、神戸高速鉄道等は全線不通。神戸周辺の交通機関はマヒ状態。午後3時から地下鉄西神中央~板宿で1時間3本程度開通。夕方から山陽明石-姫路間運転再開。 |
1月19日 | 神鉄鈴蘭台-新開地間を除き運転再開。 |
1月23日 | JR須磨-西明石間、大阪-甲子園口間開通、西宮-三宮間にJR、阪急、阪神が代替バスを運行。 |
1月25日 | JR不通区間は芦屋-須磨間のみ、芦屋-三宮間代替バスを運行。 |
1月26日 | 阪神甲子園-青木間運転再開。青木-三宮間代替バス。国道43号線に代替バス専用車線開設。 |
1月30日 | JR須磨-神戸間開通。神戸-三宮間代替バス運行。 |