【 2024 年度 授業概要】
科   目 工学倫理 ( Engineering Ethics )
担当教員 伊藤 均 非常勤講師
対象学年等 全専攻・2年・前期・必修・2単位【講義】
学習・
教育目標
D1(100%)
JABEE
基準1(1)
(b)
授業の概要
と方針
技術者は,高度に発達した科学技術を適切に運用していく責任を,社会に対して負っている.この授業では,この責任が,具体的にどのような内容や特徴を有するか,それを果たす際にどのような困難が生じうるか,この困難を克服するためにどのような手段が存在し,また必要か等を,さまざまな具体的事例を題材としながら,多角的に考察し,技術者の負う倫理的責任に対する理解を深めていく.



1 【D1】 技術者の業務はどのような特徴を持つか,またそれに対応して,技術者の負う倫理的責任はどのような内容のものかを理解している.
2 【D1】 技術者はその日常業務において,どのような倫理的問題に直面する可能性があるかを理解している.
3 【D1】 技術者に関係のある,とりわけ上記の問題に対処する際に重要な社会制度にはどのようなものがあるかについて,十分な知識を身に付けている.
4 【D1】 (1)〜(3)の理解や知識に基づいて,技術者が出会う典型的な倫理問題に対して,有効な対処策を考案できる能力を身に付けている.
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1 最近発生した事故事例を調べ,それに関わっていた技術者がどのような責任を負っていたかを考察するレポートにおいて,倫理的責任に対する理解を評価する.
2 科学技術のリスク,組織に関わる問題,海外での技術活動等に関して,授業中適宜行う課題を提出させて評価する.
3 内部告発等に関して,授業中適宜行う課題を提出させて評価する.
4 典型的な倫理問題を扱ったケーススタディを授業中適宜実施し,それに関してまとめたレポートの提出によって評価する.
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成績は,授業中に適宜行う課題40% 前期末に提出するレポート60% として評価する.100点満点で60点以上を合格とする.本科目は,多角的に考察できる能力,および時事的な事例に関する最新の情報を自ら収集し活用する能力の定着度を評価するために,筆記試験に相当するレポートを課す.
テキスト 「はじめての工学倫理」:齊藤了文,坂下浩司 編(昭和堂)
参考書 「誇り高い技術者になろう」:黒田光太郎,戸田山和久,伊勢田哲治 編(名古屋大学出版会)
「第2版 科学技術者の倫理」:C. E. Harris Jr.,M. S. Pritchard,M. J. Rabins 著,日本技術士会 訳(丸善株式会社)
「工学倫理入門」:R. Schinzinger,M. W. Martin 著,西原英晃 訳(丸善株式会社)
「技術倫理1」:C. Whitbeck 著,札野順,飯野弘之 訳(みすず書房)
「実践的工学倫理」:中村収三 著(化学同人)
関連科目 一般教養科目
履修上の
注意事項
授業では,ビデオや新聞記事等を使用し,昨今の事故や企業モラルに関する事例を多く取り上げる.授業中,適宜参考資料等も紹介するので,専門分野以外のことにも広く関心を持って取り組んでほしい.応用倫理学等の関連科目の講義内容を参考にしてほしい.

【授業計画( 工学倫理 )】
上段:テーマ/下段:内容(目標、準備など)
1 なぜ技術者倫理なのか
技術者を志すものがなぜ倫理を学ぶ必要があるのか.技術者と倫理とのつながりを,今日の社会的背景や,工学系学協会による倫理綱領の制定等から明らかにし,今倫理について学び,考える意義を確認する.
2 チャレンジャー号事故1
技術者倫理においてもっとも有名な,スペースシャトル・チャレンジャー号の事故を取り上げ,組織における技術者の判断と,経営者の判断について述べる.
3 チャレンジャー号事故2
前回に続いて,チャレンジャー号事故の事例を手掛かりとして,組織におけるリスクマネジメントが有効に機能するために,技術者はどのような責任を負うかを考える.
4 東海村JCO臨界事故1
JCOの臨界事故を取り上げ,日本の製造業を支えてきた改善活動の意義と,それが直面している課題,またそれに対して技術者がどのように関わるべきかを考える.
5 東海村JCO臨界事故2
前回に続いて,JCO臨界事故を取り上げ,集団としての組織が陥りやすい集団思考について述べ,安全や品質を確保するために,技術者はそれにいかに対処すべきかを述べる.
6 内部告発1
近年導入された公益通報者保護制度に関して,その趣旨,現行法に対する批判,さらにはこの制度と技術者との関係について解説する.
7 内部告発2
前回に引き続き,内部告発を取り上げる.コンプライアンス体制充実の一環として,相談窓口等の設置を行う企業が増加している.このような動きが,組織と個人の関係にとって有する意義を考察する.
8 製造物責任法
技術者にとってもっとも関係の深い法律と言われる製造物責任法に関して,その内容を確認し,技術者がそれをモノづくりの思想として定着させていくことが重要であることを述べる.
9 知的財産
特許制度や著作権などの制度が,技術の開発等にとって有する意義を確認するとともに,情報技術の発達等による,この制度の抱える課題等を考察する.
10 ボパール事故1
史上最大の産業事故といわれる,インド・ボパールでの農薬工場事故を取り上げ,グローバル化の進展とともに今後ますます増加するであろう,海外での技術活動に伴う問題について述べる.
11 ボパール事故2
前回の内容に基づいて,技術の展開には,それを取り巻く社会の諸条件,とりわけ文化や歴史,思想等との相互作用が深く関わっていること,技術者は,それらを考慮に入れて技術活動を行う必要があることを考察する.
12 六本木ヒルズ回転ドア事故1
回転ドアの事故の後に行われたドアプロジェクトの活動を紹介し,失敗学の考え方や意義,リスク管理におけるハインリッヒの法則等について述べる.
13 六本木ヒルズ回転ドア事故2
前回の内容に基づいて,技術者もまた,それぞれが技術者としての文化を背景に持っていること,それに起因する問題を克服するためには,知識の伝承をいかに行うかが重要であることを述べる.
14 技術者倫理の射程
技術者による新たな技術開発は,情報社会や医療といった分野にさまざまな影響をもたらしている.技術者は,これら他の分野の倫理とどのようなかかわりを持つべきなのかを考察する.
15 専門職としての技術者と倫理
これまでのまとめと,今後の課題について.現代およびこれからの時代において,技術者が専門職としての地位を確立することが,社会全体にとって大きな意義を有すること,そして,そのための必要条件の一つが工学倫理であることを解説する.


中間試験および定期試験は実施しない. 本科目の修得には,30 時間の授業の受講と 60 時間の事前・事後自己学習が必要である.中間試験,定期試験は実施しないが,授業中に適宜行う課題,前期末にレポートの提出を課す.事前学習では,シラバスの授業計画の学習内容を確認し,問題点をまとめておくこと.事後学習では,授業内容の復習を行い,自分なりの意見をまとめ,レポート作成に備えること.